もう自分を責めないで。季節性感情障害(SAD)


「ねぇ、本当に私って怠け者なのかな?
毎年11月くらいになると、まるで強制的に冬眠スイッチが入ったみたいに眠くてだるい……。甘いものが止められない自分にも自己嫌悪。
ただの冬バテ? それとも、心が疲れてるの?」
鏡の中の自分にそう問いかけてしまうあなたへ。
大丈夫、あなたは決して怠けているわけではありません。
みなさん、こんにちは。
就労継続支援A型事業所ONE STEP利用者のヒラヤマです。
その抗いようのない眠気、尽きることのない甘いものへの欲求、そして何もかもが億劫になる心の重さ――それは、あなたの意思の強さとは関係なく、季節が引き起こす、体の正直な反応なんです。
私たちが今向き合っているのは、『季節性感情障害(SAD)』。
通称『冬季うつ』という、冬にだけ現れる、ちょっと厄介な心の現象かもしれません。
この記事では、頑張り屋さんのあなたを苦しめるこの「冬の憂鬱」がなぜ起こるのか、そして、もう自分を責めなくて済むように、優しくて、科学的根拠に基づいた具体的な対策をご紹介します。
今年の冬は、「仕方ない」と諦めるのはやめて、一緒にスッキリとした冬を取り戻しませんか?
【 目 次 】
- 冬季うつは、女性に多い「季節性の心の風邪」
- あなたのせいじゃない!原因は「幸せホルモン」の不足
- 自分を大切にする時間へ:光で体内時計をリセットする
- 内側から整える:「食」と「リズム」のセルフケアレシピ
- 今年の冬は「自分を大切にする冬」に
冬季うつは、女性に多い「季節性の心の風邪」

冬季うつ(季節性感情障害、SAD)は、多くの場合、秋が深まる頃から始まり、春が来て光が戻る頃に自然と回復するという特徴を持つ、うつ病の一種です。
そして、この症状は女性に多いことが知られています。
理由なく気分が沈み、活動量が低下する様子は、まさに「冬のブルー」と呼ぶにふさわしいかもしれません。
一般的なうつ病と違って、冬季うつには、まるで私たちが動物のように冬の準備をしているかのような、特徴的な症状が顔を出します。
終わりのない眠気(過眠)
どんなに寝ても眠い。昼間に襲いかかる強烈な睡魔は、私たちの日常を完全にストップさせてしまいます。「一日中、暖かい布団の中で過ごしたい」と願うのは、もはや本能の叫びかもしれません。
炭水化物・甘いものへの渇望(過食)
ストレスで甘いものを求めるのとは少し違います。
脳がエネルギー不足を感じ、「とにかくブドウ糖を!」と緊急指令を出すため、無性にチョコレートやパン、お菓子が食べたくなります。
これで体重が増えて、さらに自己嫌悪……という悪循環は、本当に辛いですよね。
気分の落ち込み・意欲の低下
「あれもしたい、これも頑張りたい」と思っていたはずなのに、全てのエネルギーが吸い取られたように、興味や喜びを失ってしまいます。
あなたのせいじゃない!原因は「幸せホルモン」の不足

この季節性の不調の最大の犯人は、日本の冬に避けて通れない日照時間の減少です。
正直、光が足りないだけで、こんなに人生が左右されるなんて、私たちの体って繊細すぎると思いませんか? そう嘆きたくなる気持ちもわかります(苦笑)
1. 太陽のギフトが減ると「幸せ」が減る
私たちの脳内で、気分を安定させ、前向きな気持ちを作り出す「幸せホルモン」ことセロトニンは、太陽の光を浴びることで合成されます。
冬になり、日照時間が短くなると、セロトニンの合成量が必然的に低下します。
セロトニンが減ると、私たちは感情のアップダウンが激しくなり、気持ちが落ち込みやすくなります。そして、脳がエネルギー不足を感じて、手っ取り早く気分を安定させようと、過剰に甘いものを求めるようになるのです。
2. 睡眠ホルモンの「出しすぎ」で体がだるい
セロトニンは、夜になると睡眠を促すメラトニンというホルモンに変換されます。
本来、夜に分泌されるべきメラトニンですが、冬は日中の光刺激が不足することで、このリズムが乱れてしまいます。
その結果、日中でもメラトニンが過剰に分泌されてしまい、それが強烈な眠気や倦怠感となって現れます。
「冬になったら体が勝手に冬眠モードに入る」なんて、ちょっと皮肉な話ですよね。
でも、これはあなたの心が弱いからではなく、体が環境の変化に正直に反応している証拠なんです。
自分を大切にする時間へ:光で体内時計をリセットする

冬季うつを乗り越えるための対策は、この「光の不足」を補ってあげることに尽きます。心の専門家も推奨する、効果が期待できる対策を見ていきましょう。
1. 魔法の光!「高照度光療法」という名のセルフケア
冬季うつは日照不足が原因なのですから、外部から強力な光を補給するのが最も直接的な対策です。
これが、冬季うつに対する最も効果的で、最初に検討すべき治療法とされる『高照度光療法(ブライトライトセラピー)』です。
| 光のパワー | 家庭の照明(数百ルクス)ではダメです。 必要なのは、2,500〜10,000ルクスという、晴れた日の屋外に近い非常に強い光です。 この特別な光を浴びることで、脳は「今は朝だ!」と勘違いし、メラトニンの分泌を止め、セロトニンを合成し始めるのです。 |
| 「いつ浴びるか」が肝心 | 効果を最大限にするには、朝早く起きてすぐに浴びることが推奨されています。 朝の光で体内時計をリセットするのが目的なので、タイミングがとても重要になります。 |
| 必ず専門家と相談して | ただし、この療法は専用の機器が必要であり、眼科や精神科の専門医の指導のもとで行うことが重要です。 自己判断せず、まずは「冬季うつかもしれないので、光療法について相談したい」と専門医に話してみましょう。 |
『光を浴びるだけ?』と拍子抜けするかもしれませんが、このシンプルな行為こそが、私たち現代人が失った自然のリズムを取り戻す、最高のショートカットなんです。
2. 日々の暮らしに「優しい光」を取り入れる工夫
「いやいや、高照度光療法はハードルが高い」「いくらなんでも高照度光療法は大袈裟すぎでしょ」と感じている方も多いかと思います。
そんな方には、まずは日常の光を意識的に増やすだけでも、体は喜びます。
| 意識的な日光浴 | 天気の良い日だけでも、最低30分は屋外に出て日光を浴びましょう。寒いからと完全にシャットアウトせず、散歩や日向ぼっこの時間を「自分を癒やす時間」として確保してください。 |
| 朝のリセット習慣 | 起きたらすぐにカーテンを全開にして、部屋の電気を全てつけましょう。たとえ曇っていても、窓から入る光は、室内光よりはるかに強く、リズムを整える助けになります。 |
内側から整える:「食」と「リズム」のセルフケアレシピ

光の対策と並行して、日々の食事と体を動かす習慣を見直すことは、セロトニンを安定させ、心の波を穏やかにするための大切なセルフケアになります。
1. 感情を支える「幸せホルモンの材料」を食べる
甘いものへの強烈な欲求は、セロトニン不足による脳の「緊急エネルギー補給要請」だと理解しましょう。
しかし、ここで砂糖や炭水化物に頼りすぎると、血糖値の急上昇・急降下により、かえって気分が不安定になります。
甘いものへの渇望は、脳からの『SOS!』です。
ただでさえ疲れている体に必要なのは、お菓子ではなく、自分を支えてくれる栄養素。ここは『大人の知恵』で乗り切りましょう。
セロトニンを安定的に増やすためには、その原料となる栄養素を意識的に摂取する必要があります。
| トリプトファン | 牛乳、チーズ、大豆製品(納豆、豆腐)、ナッツ類 | セロトニンに変わるための主要な原料。毎日の食卓のどこかに必ず登場させて |
| ビタミンB6 | 魚類(カツオ、マグロ)、鶏肉、バナナ | トリプトファンがセロトニンへ変換される際にサポート役として必須 |
| マグネシウム | 海藻類、豆類、緑黄色野菜 | 神経の働きを安定させ、気分の落ち込みを防ぐための大切なミネラル |
甘いものに手が伸びそうになったら、まずは温かい牛乳やチーズ、ナッツなどを一口食べてみてください。材料を適切に補給することで、衝動的な過食を少しずつ抑えられるかもしれません。
2. 「リズム運動」で心に安定した拍を
セロトニン神経は、一定のリズムを刻む運動によって活性化されることがわかっています。
激しいトレーニングは必要ありません。
あなたのペースで、心地よく続けられるものを見つけましょう。
ウォーキング
ウォーキングは、リズム運動の中でも最も手軽で、しかも光療法と同時に実践できる最高のセルフケアです。
一番簡単で、しかも日光浴と両立できる方法ですが、女性にとってはメンタルだけでなく体にも嬉しいおまけがたくさんついてきます。
特に、女性に多い冷え性の改善に非常に効果的です。
脚の筋肉(「第2の心臓」と呼ばれるふくらはぎなど)を動かすことで全身の血行が促進され、手足の末端まで温かい血液が届けられます。
寒いからと縮こまりがちな冬こそ、血の巡りを良くして、ポカポカ温まりやすい体づくりを目指しましょう。
また、継続的なウォーキングは、基礎代謝を上げ、脂肪が燃焼しやすい太りにくい体質への変化をサポートします。
冬は体温維持のために基礎代謝が上がりやすい時期でもあるため、ウォーキングを始めるには絶好のチャンスです。
音楽やAmazonのAudibleを聴きながら、規則的な歩調で近所を歩く15〜30分は、心の安定(セロトニン活性化)だけでなく、「冷えとダイエット」も叶えてくれる、最高のセルフセラピーになります。
咀嚼(そしゃく)
驚くかもしれませんが、「よく噛んで食べる」という行為自体もリズム運動です。
食事中にテレビやスマホを見るのをやめ、意識的にしっかり噛むだけで、セロトニン神経が刺激されます。
しっかり噛むことで満腹感も刺激されるのでダイエットにも最適かも?
3. 「規則正しい生活」で体内時計を慈しむ
体のだるさや眠気に負けて、週末に長時間寝溜めすることは、平日にやっと整えた体内時計を大きく狂わせてしまう原因になります。
暖かい布団に包まれて、思う存分寝るのが気持ちいいのは、ヒラヤマも知っています。
ですが、どんなに眠くても、毎日同じ時間に起きること。
そして、昼寝をするなら30分以内に抑えること。
これは、自分を縛るルールではなく、「冬の不調から自分を守るための、優しい防御策」だと捉えてみましょう。
今年の冬は「自分を大切にする冬」に

毎年繰り返される「冬の憂鬱」は、あなたの心の弱さではなく、光不足による脳の正直な反応です。自分を責めるのは今日で終わりにしましょう。
以下の「冬季うつを乗り越えるための3つのステップ」を試してみてください。
| STEP1 | 光の力を借りる | 高照度光療法(専門医へ相談)や、日常での意識的な日光浴で脳に「朝だよ!」と教えてあげる。 |
| STEP2 | 食事で心を支える | セロトニンの原料(トリプトファンなど)をしっかり摂り、内側から感情を安定させる。 |
| STEP3 | リズムで整える | 規則正しい時間に寝起きし、ウォーキングやしっかり噛む食事でリズム運動を取り入れる。 |
症状が重い、または数年間毎年繰り返していると感じた場合は、必ず精神科や心療内科の専門医に相談してください。
専門家と相談して適切な治療(光療法や必要に応じた薬物療法)を始めることが、この冬のブルーから抜け出すための最も確実で、自分を大切にする行動です。
今年の冬は、「仕方ない」と我慢するのではなく、「私を元気にするために、この対策を試してみよう」と、自分に優しく語りかけてみませんか?

