【制度の切れ目】障害児の親が「18歳の壁」を乗り越えるための完全マニュアル

障害者にとっての18歳の壁

1. 「18歳の壁」は他人事じゃない!
高校卒業であなたの仕事と生活はどう変わる?

18歳の壁に関するトピックス
 

「18歳になったら、どこに行けるの?」 

「手続きはいつから始めれば間に合うの?」

 「親が働いている時間は誰が見てくれるの?」

 そんなふうに夜な夜なキッチンで溜め息をついている親御さん、いらっしゃいませんか?
 はい、画面の前のあなたです。

 愛する我が子が18歳になる。
 世間一般では「成人おめでとう!」となるタイミングです。(2022年4月1日から、成年年齢が20歳から18歳に変わりました)
 しかし、障害児の親にとっては、「恐怖のカウントダウン」がゼロになる瞬間でもあります。
 なぜなら、18歳を境に、行政のルールが「子供扱い」から「大人扱い」へとドライに切り替わるからです。
 昨日まで手厚く守ってくれていた「放課後等デイサービス」や「学校」という防波堤が、卒業と同時になくなってしまうのですから。
 今回は、そんな「障害者の18歳の壁」について、徹底的に解説します。
 漠然とした不安を抱え続けているのは、辛いですよね?
でも、大丈夫!
 この記事を読めば「次に何をすべきか」がクリアになりますよ。

そもそも「18歳の壁」って何?

「18歳の壁」問題とは?

 まず、この「18歳の壁」の正体を暴いていきましょう。
 簡単に言うと、「根拠となる法律が変わるせいで、使えるサービスや時間が激変する現象」のことです。

法律の縦割り行政という名の迷路

 これまで私たちが守られてきたのは「児童福祉法」という、子供を守るための法律でした。
 しかし、18歳を迎えた瞬間、子供は「児童」から「障害者」へと呼び名が変わり、適応される法律が「障害者総合支援法」へと切り替わります。
 「名前が変わるだけでしょ?」と思ったあなた。甘いです。激甘です。
 最大の問題は「サービスの提供時間」にあります

  • 18歳まで(児童福祉法: 特別支援学校のあと、夕方18時〜19時頃まで「放課後等デイサービス」が預かってくれました。おかげで、親はフルタイムや長時間のパート勤務が可能でした。
  • 18歳から(障害者総合支援法: 多くの人が「生活介護事業所」などの通所施設を利用することになりますが、ここの閉所時間はなんと「15時〜16時」が一般的。

 お気づきでしょうか? 夕方の数時間、空白の時間が生まれるのです。
 これを世間では「たかが数時間」と言うかもしれませんが、働いている親にとっては「死活問題」です。
 15時半に帰ってくる子供を迎えるために、15時には会社を出なければならない。
 そんな働き方ができる職場が、日本にどれだけあるでしょうか?
 これが、「介護と就業のジレンマ」です。
 今までと同じように働こうと思っても、物理的に時間が足りない。
 結果として、親(特に母親)が仕事を辞めざるを得なくなる。
 これが「18歳の壁」の冷徹な現実です。

役所は「大人なんだから」と言うけれど

 ここで少し皮肉を言わせてください。 
 制度を作った人たちは、きっとこう思っているのでしょう。

「18歳になったんだから、もう親の手はいらないよね?
 自分でなんとかできるよね?」

 しかし、重度の知的障害や自閉症がある子にとって、18歳になったからといって急に一人で留守番ができるようになるわけではありません。
 身体的な成長はあっても、中身は愛すべき子供のまま。
 それなのに、制度だけがドライに切り替わる。
 このギャップに、私たちは苦しめられるのです。

具体的に何が変わる?
サービスの「メニュー表」書き換え

「18歳の壁」問題とは?
 

 では、もう少し実務的な話をしましょう。
 18歳を境に、利用できる「施設」や「サービス」のメニュー表がどう書き換わっていくのでしょうか。

1. 通う場所が変わる:「放課後等デイ」から「生活介護」へ

 前述の通り、学校卒業後は「生活介護(デイサービス)」や「就労継続支援(A型・B型)」に通うのが一般的です。
 ここで注意したいのは、「年齢制限」です。

 つまり、高校を卒業した翌日からは、今まで慣れ親しんだデイサービスの先生や友達とはお別れし、新しい「大人の施設」に通わなければなりません。
 環境の変化に弱い自閉症のお子さんなどには、これが大きなストレスになることもあります。

2. 住む場所の選択肢:「グループホーム」の解禁

 一方で、悪いことばかりではありません。
 18歳になると、「障害者グループホーム」への入居が可能になります。

  •  グループホーム(共同生活援助): 障害のある人たちが、世話人などの支援を受けながら地域で共同生活を送る場所。これは原則18歳以上から利用可能です(例外的に15歳以上で認められるケースもありますが、基本は18歳)。

 親亡き後のことを考えて、「いつかはグループホームへ」と考えている親御さんは多いはず。18歳は、その「親離れ・子離れ」の第一歩を踏み出せる年齢でもあるのです。(グループホームはなかなか見つからないことが多いので、長い目で見ることが大事です)

3. 医療的なケア:「療養介護」の登場

 重度の障害があり、常に医療的ケアが必要な方のための「療養介護」というサービスも、これまた原則18歳以上が対象です。
 病院に入院しながら、機能訓練や療養上の管理、看護などを受けられるサービスです。
 18歳未満の場合は「医療型障害児入所施設」などが対応していましたが、18歳以降は「療養介護」へと移行します。
 ここでもやはり、「大人扱い」がスタートラインなのです。

ここで登場! 救世主(かもしれない)「訪問看護」

18歳の壁問題の対策「訪問看護」

 さて、ここまで読んで「15時に帰ってこられたら働けないじゃない! どうすればいいの!」と絶望している方に、 ここで一つ、検討してほしい強力な選択肢があります。
 それが「訪問看護」です。

「え、看護師さんが家に来るの? うちは病気じゃないけど…」

 そう思うかもしれません。でも、ここが誤解されやすいポイントです。 
 訪問看護は、何も「寝たきりのお年寄り」だけのものではありません。
 医療的ケアが必要な障害児・者や、精神的なサポートが必要な方も対象になり得るのです
 18歳の壁によって生じる「ケアの空白」を埋めるために、この訪問看護が大きな役割を果たす可能性があります。

18歳の壁で「訪問看護」が救世主になる3つのケース

 訪問看護は、単に医療行為を行うだけではなく、自宅での生活全般を支えるために、様々な局面で私たち親子を助けてくれます。

ケース1:午後の空白時間を埋める「安全な見守り役」

 「生活介護」の閉所時間は15時や16時が一般的です。
 もし親御さんが17時まで働いていた場合、この2〜3時間の「空白」をどう埋めるか、頭を抱えますよね。
 ここで訪問看護師さんが自宅に来てくれると、この空白時間が「専門職による見守り時間」に変わります。

【具体的な支援の例】

 帰宅後の見守り、体調チェック、服薬管理。重度の自閉症などでパニックを起こしやすいお子さんに対し、専門的な知識をもって関わり、落ち着いた環境を維持する。
 親が帰宅するまで安全を確保し、夕食の準備やトイレ介助なども必要に応じて行います。

 これは、親が「仕事の終わりまで気が気でない」状態から解放される、精神衛生上、非常に大きなメリットです。

ケース2:重度・医療的ケア児にとっての「命綱」

 重度の障害があり、経管栄養や痰の吸引、人工呼吸器などの医療的ケアが必要なお子さんにとって、訪問看護は文字通りの「命綱」です。
 医療的ケア児を受け入れてくれる通所施設は、残念ながらまだ全国的に不足しています。
 18歳を境に、慣れた施設を出て通所先が見つからないという「二重の壁」にぶつかることもあります。
 在宅での訪問看護を利用することで、以下のような支援を受けられます。

  • 医療的処置の実施:吸引、経管栄養、カテーテル交換など、専門的な看護ケアを自宅で受けられる。
  • 体調急変時の対応:プロの看護師がいることで、急な発熱や体調の変化にも適切に対応でき、緊急時の病院受診をスムーズに判断できます。

この支援があるからこそ、在宅での生活が継続できるご家庭も少なくありません。

ケース3:「親の孤立」を防ぐための精神的なサポート

 訪問看護師さんは、医療のプロでありながら、親にとっての「良き相談相手」にもなります。
 子どもの体調や生活の変化を共有することで、

「最近、夜眠れていないみたいで…」

「急にパニックが増えてきて…」

 といった、病院では話しにくい日常の小さな悩みを定期的に相談できます。
 訪問看護の利用は、親自身の心身の疲労や孤立を防ぐための、立派なセルフケアの一環なのです。
 「親がやらなきゃ」というプレッシャーから、ほんの数時間でも解放される時間は、翌日のエネルギーをチャージしてくれます。

訪問看護を検討するハードルを下げよう

「うちは重症じゃないから…」

 と遠慮する必要はありません。
 訪問看護を利用するには「主治医からの指示書」が必要ですが、障害の種類や程度にかかわらず、主治医が「自宅での看護が必要」と判断すれば、誰でも利用を検討できます。
 まずは、地域の「基幹相談支援センター」や「ケアマネジャー」に相談し、「うちの子の状況で訪問看護は適用できますか?」と率直に尋ねてみてください。
 知っているか知らないかで、18歳以降の生活の質が大きく変わってきます。
 今すぐアクションを起こし、この新しい「武器」を手にすることを強くお勧めします。

焦らないための「18歳の壁」対策チェックリスト

「18歳の壁」対策チェックリスト
 

 不安ばかり煽っても仕方がないので、ここからは「今、できること」をリストアップしました。
 これを一つずつクリアしていけば、壁は必ず乗り越えられます。

 1. 情報収集は「フライング」気味に

 18歳になってから動くのでは遅いです。高2の夏くらいから動き出しましょう。

  • 地域の「基幹相談支援センター」に相談予約を入れる。
  • 先輩ママ(同じ学校の卒業生の親)に「卒業後、どこ使ってる?」とリアルな口コミを聞く。

2. 「受給者証」の切り替え準備

 児童福祉法から障害者総合支援法への切り替えに伴い、新しい「受給者証」の申請が必要になります。

  • 役所の障害福祉課に行き、「18歳以降の支給決定プロセス」を確認する。
  • 区分認定調査(障害支援区分の認定)の時期を把握する。

3. 通所先の見学・体験

生活介護」や「就労継続B型」など、卒業後の行き場所を見学しましょう。

  • 送迎はあるか?
  • 時間は何時までか?(ここ重要!)
  • 延長支援(夕方支援)はやっているか?
  • 雰囲気は子供に合っているか?

4. 「訪問看護」や「居宅介護」の検討

  • 通所施設の時間が短い場合、その後の時間をどう埋めるかシミュレーションする。
  • 訪問看護ステーションに問い合わせてみる。

壁は壊せなくても、扉はある

18歳の壁問題を表にして考える
 

ここまで「18歳の壁」について、制度の変わり目や、親にかかる負担についてお話ししてきました。
 正直、制度はすぐには変わりません。
 課題は認識されていても、解決には時間がかかります。
 15時に帰ってくる子供を前に、途方に暮れる日もあるかもしれません。
 でも、忘れないでください。 あなたは一人ではありません。
 同じように悩み、工夫し、なんとか日々を回している仲間がいます。
 そして、完璧ではありませんが、訪問看護やグループホームといった「新しい武器」も18歳から手に入ります。
 壁は確かに高いし、頑丈です。
 でも、真正面からドカーンとぶつかって砕け散る必要はありません。
 使えるサービスをパズルのように組み合わせ、周りの人を巻き込み、時には「助けて!」と大声で叫びながら、壁に小さな「扉」を見つければいいのです。
 まずは明日の朝、コーヒーを飲みながら、近くの相談支援事業所をスマホで検索することから始めてみませんか?
 その小さなワンクリックが、壁を越える最初の一歩になるはずです。

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