社会不安障害は性格の問題ではない │ ずっと自分を責めてきた人へ

そのつらさ 性格の問題だと思っていませんか

『また電話だ。失敗したらどうしよう』

『会議で当てられたら、たぶん頭が真っ白になる』

『でも、みんな普通にやってるしな。こんなのでつらいなんて、私が弱いだけかもしれない』

 こうやって、自分に言い聞かせながら毎日を乗り切っている人は少なくありません。
 外から見ると普通に働いている。
 学校にも行けている。
 会話だって、まったくできないわけではない。
 だから余計に、自分でもわからなくなるんです。

 『つらいのは事実なのに、説明しようとすると急に自分でも大したことない気がしてくる』

 あの感じ、ありませんか。
 苦しいのに、苦しいと言い切ることにまでためらいが出てくる。
 そこがまた苦しいんですよね。

 これは性格の問題なのか。
 それとも、別の見方をしたほうがいいのか。

 社交不安障害は、人と関わる場面や、人から注目される場面で強い不安や恐怖が生じ、日常生活に支障が出る不安障害の一つです。
 以前は『社会不安障害』と呼ばれていました

ちゃんとしている人ほど 気づきにくい

 このテーマでいちばん厄介なのは、つらい本人ほど『病気ではなく性格の問題だ』と思い込みやすいことです。真面目な人ほど、そうなります。

 社交不安障害は、本人の努力不足や性格によって引き起こされるものではないと説明されています。
 それでも見逃されやすい理由のひとつが、発症年齢の平均が13歳とされ、かなり早い時期から始まることがある点です。
 子どもの頃から緊張しやすかった人は、『昔からこうだから』『人見知りなだけ』と受け止めやすく、症状として考える発想を持ちにくい傾向があります

 性格と思い込みやすい理由を、いったん整理するとこうなります。

  • 子どもの頃から続いていて、自分の一部に見えやすい。
  • 外からは『普通にできている人』に見えやすい。
  • 真面目な人ほど『自分の努力不足』と考えやすい。
  • 不安の苦しさが見えにくく、『気にしすぎ』で片づけられやすい。

 ここ、かなり大事です。
 昔から苦手だったことは、自分の一部に見えてしまいます
 長く抱えてきた悩みほど、『治すもの』ではなく『抱えて生きるもの』に見えてしまうからです。

 でも、本当はそこを一度疑ったほうがいい。
 社交不安障害は珍しい状態ではなく、生涯有病率は約13%、およそ7人に1人が一生のうちに経験する可能性があると紹介されています。
 『こんなことで苦しいのは自分だけ』と思ってきた人にとって、この数字はかなり意味があります。

 自分を責める方向にばかり考えてしまう。
 あれもこれも『気にしすぎ』で片づけてきた。
 その感覚、わかります。けれど、性格だと思い込んでいるものの中に、ちゃんと名前のある苦しさが隠れていることはあります

怖いのは 人そのものではありません

 社交不安障害というと、『人が苦手な人の話』に見えるかもしれません。
 ただ、実際はもう少し違います。

 中心にあるのは、『変に思われるかもしれない』『恥をかくかもしれない』『失敗したら終わりだ』という強い不安です。
 人そのものが怖いというより、『人に見られて評価される瞬間』が怖い
 そこに近いんです。

 症状としては、人前で話そうとすると声が震える、電話に出る前から強く身構える、会食で食べる姿を見られるのが苦しい、初対面の会話だけでひどく疲れる、人前で字を書く場面さえつらくなる、といった例が挙げられています
 顔のほてり、口の渇き、動悸、息苦しさ、震え、めまい、吐き気、腹痛などの身体症状が出ることもあるとされています。

 よくある場面を整理すると、こんな感じです。

場面起こりやすいこと
電話対応受け答えの間が怖い、あとから何度も反芻する。
会議や発表順番が近づくだけで頭が真っ白になる。
会食食べる姿を見られることが苦痛になる。
初対面の会話会話そのものより『どう見られたか』が気になって消耗する。
人前で字を書く場面手元を見られている感じがしてつらくなる。

 『人が嫌いなわけじゃないのに、こういう場面だけ異様にしんどい』

 そう感じてきた人には、この違いがかなり重要です。
 苦手なのは、人そのものではなく、見られて評価される瞬間かもしれません。

 たとえば電話。
 電話が怖いというより、受け答えの一瞬の間が怖い。
 相手が少し黙っただけで、『今の返し、変だったかな』とそのあと何時間も引きずってしまう。そんな感覚です。

 会議も同じです。
 議題そのものより、『自分の番が近づいてくる空気』に押される。
 周りは会議の内容を見ているのに、自分だけは心拍数のことを考えている。あの孤立感は、なかなか言葉にしづらいものです。

 人前で緊張すること自体は、誰にでもあります。
 けれど社交不安障害では、不安が強く、回避が続き、仕事や学校や日常生活に支障が出る点が特徴だと説明されています。
 ここを『ただのあがり症』で済ませてしまうと、苦しさの重さが見えなくなります。

生活は じわじわ削られていく

 この症状のやっかいなところは、突然すべてが崩れるわけではないことです。
 むしろ、少しずつ生活が狭くなっていきます。静かに。かなり静かに。

避けることで いったん楽になる

 最初は、会議だけが苦手だった。
 そのうち、電話も重くなる。雑談も避けたくなる。飲み会は最初から予定に入れない。初対面の集まりがある日は、朝から憂うつになる。
 そんなふうに、苦手が増えるというより、『避けたい場面』が増えていく感覚に近いんです。

 社交不安障害は自然に改善することが少なく、慢性的に続きやすいとされています。
 不安を感じる場面を避けると一時的には楽になりますが、その回避が積み重なると『やっぱり自分には無理だ』『また失敗するかもしれない』という感覚が強まり、不安の範囲が広がっていきやすいと説明されています。

 回避の流れを短くまとめると、こうです。

  1. 一回避けると、その場では少し楽になる。
  2. その安心感が次の回避を強める。
  3. 『避けないと危ない』という感覚が強くなる。
  4. 結果として、生活の幅が少しずつ狭くなる。

 一回断る。少し楽になる。
 また断る。やっぱり少し楽になる。
 この積み重ねが、あとから効いてきます。

働けているから大丈夫 ではありません

 できないことが増えると、人は能力まで疑い始めます。

 『私は仕事が向いていないのかもしれない』

 『社会人としてだめなんじゃないか』

 本当は不安が行動を狭めているだけかもしれないのに、人格や資質の問題にすり替わってしまう。ここが苦しい。

 実際、社会不安障害は、仕事が続かない、自分に合う仕事がわからない、視線が気になって集中できないといった悩みにつながりやすいと紹介されています。
 つまり、『働けるか働けないか』の話ではなく、『働きながら静かに削られていく』こともあるということです。

 見え方のズレを並べると、こうなります。

周りからの見え方本人の内側で起きていること
ちゃんと出社できている出社前から強い緊張で消耗している
電話に出られている一本ごとに強い疲労と反芻がある
会話は成立している『変に思われたかも』が長く残る
仕事は続いている静かに削られ、限界が近づいている

 外から見えない苦しさって、本人がいちばん軽く見積もってしまうんですよね。
 まだ出社できているから大丈夫。
 まだ返事はできているから平気。
 でも、その基準で自分を判断し続けると、かなり危ない。ヒラヤマはそう思います。

 『まだ何とかできているし』。

 この言い方で、自分を何年も説得してきた人もいるはずです。
 でも、何とかできていることと、無理をしていないことは、同じではありません。

がんばれてしまう人ほど 見逃しやすい

 社交不安障害がややこしいのは、まったく何もできなくなる人ばかりではないことです。
 むしろ、ある程度できてしまう人のほうが、自分の苦しさを見逃しやすいことがあります

 たとえば、電話には出られる。
 会議でも、必要最低限の返事はできる。
 あいさつも、笑顔も、一応こなせる。
 だから周りからは、『ちゃんとできている人』に見えます。

 でも、本人の中ではまるで違う。
 電話を一本終えるだけでどっと疲れる。
 会議の前日は、その予定が頭から離れない。
 何気ない雑談のあとも、『今の返し、変じゃなかったかな』と反芻が止まらない。
 できていないのではなく、できるように見せるためにかなり削られている。そんな状態です。

 ここが、本当に見えにくい。
 そして、本人がいちばん誤解しやすいところでもあります。

 『できているんだから大丈夫』

 『仕事に行けているんだから、病気ではない』

 そうやって自分を納得させようとする。けれど、その『できている』の裏で毎回大きく消耗しているなら、話は別です。

 ヒラヤマは、この『できてしまうからこそ苦しい』という感覚を、もっと大事に扱ったほうがいいと思っています。
 限界まで崩れていないことは、問題が小さい証拠ではありません。
 何とかこなしている人ほど、無理の総量が見えにくいからです。

性格を直す話ではなく 対処を知る話です

 ここまで読むと、少し怖くなった人もいるかもしれません。
 ただ、必要以上に身構えなくて大丈夫です。社交不安障害には治療法があります。

主な対処法と治療法

 主な治療としては、認知行動療法と薬物療法が挙げられています
 認知行動療法は、不安を強める考え方や行動のパターンに気づき、少しずつ捉え方や行動を整えていく方法です。
 薬物療法では、SSRIやSNRIなどが使われると紹介されています。

 主な対処を整理すると、こうなります。

方法内容
認知行動療法不安を強める考え方や行動の癖を整えていく。
薬物療法SSRIやSNRIなどが用いられることがある。
日常での工夫腹式呼吸、カフェインを避ける、生活リズムを整える。
相談先必要に応じて精神科や心療内科に相談する。

 表にするとシンプルですが、受け取る側の気持ちはそんなに簡単ではありません。
 『治療法があります』と言われても、すぐ安心できる人ばかりではないと思います。
 それでも、性格を責め続けるしかなかった状態から比べれば、対処の方向があるという事実はかなり大きいです。

薬が不安な人へ

 ここで、『薬はちょっと不安』と思う人もいるでしょう。
 正直、その気持ちはかなり自然です。
 受診したらすぐ薬になるのでは、と身構える人は多いはずです。

 ただ、『薬を使わずに治療したい』という相談もできます。
 必要に応じて精神科や心療内科に相談することが大切だとされていて、受診そのものが即服薬を意味するわけではありません。
 このあたりは、思っているより柔軟です。

 ここで少し気持ちが軽くなる人もいるはずです。
 受診は、いきなり何かを決められる場ではありません。
 不安そのものを含めて話していい場所です。

相談する前に 整えておきたい視点

 受診や相談と聞くと、少し身構えてしまう人もいるはずです。

『うまく説明できなかったらどうしよう』

『大したことないと思われたら恥ずかしい』

 そんな迷いが出るのも自然です。

 ただ、ここで無理に立派に話そうとしなくて大丈夫です。
 最初から症状をきれいに整理できる人ばかりではありません。
 むしろ、多くの人は『何がつらいのかははっきり言えないけれど、とにかくしんどい』というところから始まります
 相談前に整理しやすいポイントは、次の4つです。

  • どんな場面で苦しくなるか。
  • 体にどんな反応が出るか。
  • どのくらい避けるようになっているか。
  • 仕事や生活にどんな支障が出ているか。

 人前で話すときの強い恐怖、恥をかく場面への過度な不安、電話や会議や会食など特定場面での強い苦痛、回避行動、仕事や日常生活での支障などがセルフチェックの観点として紹介されています。
 つまり、『性格が弱い気がする』というぼんやりした悩みも、場面ごとに分けて見ていくと、少しずつ輪郭が出てくるということです。
 ここで大切なのは、自分の苦しさを証明しようとしすぎないことかもしれません。

『もっと重い人もいるし』

『これくらいで相談するのは大げさかも』

 そうやって後回しにする人ほど、長く抱え込みやすい。
 でも、本当に必要なのは、つらさの大小を競うことではなく、自分の生活に支障が出ているかを見ていくことです。

 相談は、弱さの申告ではありません
 今の自分の状態を、もう少し正確に知るための行動です。
 そう考えられるだけでも、受診や相談のハードルは少し下がります。

最初に変えるべきは 自分への見方です

『こんなことで相談していいのかな』

 この迷いが浮かぶ人ほど、長く我慢してきたのだと思います。
 人前で話すのが怖い。電話がつらい。会食が苦しい。視線が気になって集中できない。そんな状態が続いているなら、それを単なる性格の一言で片づけないほうがいいでしょう。
 社交不安障害は、努力不足ではなく、治療や対処の対象になりうる状態です。

 ここで最初に変えるべきなのは、仕事のやり方でも、性格でもありません。
 自分への見方です。
 『自分はだめだ』ではなく、『自分はずっと、理由のある苦しさを性格だと思ってきたのかもしれない』と捉え直すこと。そこが出発点になります。
 最後に、これだけは置いておきたいです。

  • つらさを性格の問題だけで片づけないこと。
  • 働けているかどうかだけで判断しないこと。
  • 自分を責める前に、症状として見直してみること。
  • 相談は弱さではなく、状態を知るための行動だということ。

 『こんなことで』と思ってきた時間が長い人ほど、ここは急に切り替わらないはずです。
 すぐに前向きになれなくても当然です。
 ただ、自分のつらさを、自分で雑に扱わない。まずはそこからで十分です。
 それは大げさな一歩ではありません。でも、たぶん必要な一歩です。

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